不動産コラム【R4/11/25】 夫から妻に対する明渡請求

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夫の所有建物に離婚訴訟中の妻が居住。夫は明け渡しを求めていますが・・・。

Question

5年前に結婚した夫Aと妻Bは、結婚当初は夫Aが婚姻前から所有していた建物で同居して生活していました。しかし不仲を原因に3年前から別居するようになり、現在離婚訴訟中です。なお、婚姻費用については審判で確定しており、別居後は現在まで妻Bが1人で同建物に居住し続けています。

Aは、円満な夫婦関係はすでに終了しているからBは居住権を有しないとして建物の明け渡しを求めており、一方Bは、婚姻関係に基づく居住権原が認められるとしてこれを争っています。

     

Answer

建物に居住することが権利の濫用に該当するような特別な事情がない限り、妻は建物を明け渡す必要はありません。

本事案では、夫婦共同生活の本拠としていた建物の所有者が、当該建物での居住を続ける他方配偶者に対し、円満な夫婦関係が終了したことを理由に、建物の明け渡しを請求できるかが問題となります。

本事案と類似のケースにおいて、東京地裁平成30年7月13日判決は、夫婦は同居して互いに協力扶助する義務を負う(民法752条)ため、夫婦が夫婦共同生活の場所を定めた場合において、その場所が夫婦の一方が所有する建物であるときは、他方配偶者は権利の乱用に該当するような特段の事情がない限り、同建物に居住するする権原を有すると解すべきであると判断し、他方配偶者は婚姻関係が円満である限りにおいて同建物に居住する反射的利益を享受するに過ぎないとする夫の主張を排斥しました。

そして、権利の濫用に該当するような特段の事情が存在するのかという点について、

①夫婦間の不和の原因は相互の不満不信によるものであり、妻の夫に対する悪意の遺棄等、妻の一方的な落度に基づくものとは認められないこと

②審判における婚姻費用の算定において、夫が同建物の住宅ローンの返済等の負担をしていることで妻が居住費等の負担を免れていることが考慮されたこと(夫が不当に特に高い婚姻費用を負担しているわけではないこと)

③夫婦間で離婚の手続きが進んでおり、近い将来において所有者ではない妻が同建物を占有している問題の解決が図られることが見込まれること

以上の事項を指摘して、妻に権利の濫用に該当するような事情はないと判断しました。

よって、本事案でも、Bの権利濫用に該当するような特別な事情が認められない限り、Bは建物を明け渡す必要はないと考えられます。

前述の特段の事情の有無については、単に婚姻関係が破綻しているだけでは足りず、別居に至ったことについて誰に帰責性が認められるのかという点や、別居後の状況も勘案して判断されているのが実情です。

他方配偶者が明渡義務を争っている場合、夫婦間における建物の明渡請求は容易に認められません。ですから、不動産事業者としては、夫婦関係が破綻しているのであれば建物所有者からの明渡請求が当然認められると安易に判断して、間違ったアドバイスを行うことがないよう十分に注意しなければなりません。

 

 

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